あの占い師に教わった運命の意味

小言

手相や生年月日や名前の字画でその人の運命が見えるらしい。

自分にはわからない。

だけど見る人が見ればわかるらしい。

 

占い師。

 

人の人生の流れがわかる。

今日も誰かを占う。

占う対象が得意なことやどんな職業に向いているのか。

これまで乗り越えた困難。

今後乗り越えるだろう困難。

恋愛に結婚に仕事。

その人の未来を占う。

信じたくなる。

 

だって、今、人生のどん底だと感じているから。

 

助言が欲しい。

多くの人がそうだと思う。

人生の最高地点で「占い」を求めるよりもどん底の状態で「占い」を求める人の方が多いはず。

 

絶好調なら助言は必要ない。

 

先行きが不安な時や気になる時。

どん底だと感じる時。

 

助言が必要な時。

 

まさに今、私には助言が必要だった。

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運命と自分と占い師

何をやってもうまくいかない。

自分は今、まさにそんな時期。

仕事をしてもダメ。

恋愛もうまくいかない。

人間関係も崩れていく一方。

しまいには友人に変な商品を買わされる。

 

ひどく心が弱っている。

 

この先、どうなっていくのか。

お先真っ暗な状態。

どこまでこの状態が続くのか。

夜な夜な恐怖で震える。

何も出来なくて悔しい。

うまくいかなくて悔しい。

自分に自信が持てなくなっていく。

他人に自分の舵取りをお願いしたくなる。

自分の選択では全てが裏目に出てしまう気がする。

今日もしょんぼり、うまくいかないまま仕事が終わる。

 

溜息ばかりの帰り道。

 

いつもは気にも留めない「占い師」が駅前にテーブルと椅子を出して座っている。

テーブルの上には手作りの「手相」と書いてある薄暗いランプ。

 

「いいですか?」

「どうぞ。」

 

自分から声をかけた。

そのくらい助言がほしかった。

 

「あなたは頑張り屋さんで、スポーツ選手が良く持つ手相と同じ線がある。芸術面の才能もあるけど出来れば人の下で働く方が向いていそう。今は健康面にも気を使うといい。疲れている。人に気を使い過ぎたりする部分もあるけど優しい人。悪く言うと騙されやすいから気を付けなくてはいけない。今は動く時じゃなくて耐える時。辛い日が続いているかもしれないけど一生は続かない。来年まではこの調子が続くかもしれないけど必ず良くなってくる。仕事も恋愛もうまくいかない時期。捉え方と行動でそれを早く変えることが出来る。続きはまた次回。」

 

「次回?おいくらですか?」

 

占い師がスッと名刺を出した。

 

「手相だけで料金は頂きません。ここに書かれている事務所であればより深い占いが出来ます。もし興味があればお電話ください。その際にあらかじめ生年月日やお名前を漢字で教えて頂くことになりますがご了承ください。事務所での占いは1万円になりますが、追加でのお支払いなどは一切ありません。手相は私が持つ占いのほんの一部です。ですのでこれだけで料金は頂きません。連絡をお待ちしています。」

 

「あ。はい。ありがとうございました。では失礼します。」

 

その日はそのまま帰宅した。

 

テレビで見た。

貰った名刺を見ながら思い出す。

そういえば少し前。

ある芸能人が自称占い師に憑りつかれたようにお金を支払い続けるっていう詐欺みたいな報道があった。

占い師の言う通りにすれば人生はさらに良くなる。

そんな感じで入り浸って、問題になってたような。

ワイドショーの記憶。

手相を見るだけである程度「当たってる感」はあった。

駅前の邪魔にならないようなポジショニングで、佇んでいた占い師。

駆け込み寺のような占いをお願いする人の心理的には、

 

「うまくいってない」可能性が高い。

 

間違いなく高い。

そして自分もその状態であった。

何もかもうまくいかない。

仕事も恋愛も人間関係も。

ダメダメな状態。

だからフラッと手相占いをお願いした。

そしたら「もともと強い人間なんだけど今はうまくいってない状態。だけどその内良くなる。良くする方法もある。」みたいなニュアンスで言われた。

無料で。

当たってる。

確かに当たってはいる。

今手元にはその占い師の名刺がある。

 

1万円って言ってた。

 

電話…。

 

してみようかな。

 

やっぱりうまくいかない。

今日もダメ。

ここまでうまくいかないと何がダメなのか知りたくなる。

もしあるなら早くその部分を直したい。

 

帰り道、駅前にはあの占い師がテーブルを出して座ってた。

 

その日は声をかけることはなかった。

そのままコンビニで発泡酒を買って帰宅。

とりあえずお風呂に入る。

出て早々、たいして冷えてない発泡酒を開けて飲む。

 

「今は健康にも気を使うべき…」

 

という占い師の言葉を思い出した。

テーブルの上に重なった雑誌の上には今も名刺が置かれている。

頭を人差し指で「ポリポリ」しながら考える。

 

あの人に占ってもらったらこのどん底から抜け出すヒントを教えてもらえるかもしれない。

 

そう考えながらもその日は就寝。

そのまま憂鬱な朝を迎える。

 

予約。

あの日の手相占いから2週間が経った。

調子は相変わらずで回復の兆しは見えない。

なんならどん底をキープしているような状態。

誰かに相談しても電話に出ないか煙たがられる。

自分のタイミングが悪いのか。

うまくいかない事が続き過ぎて行動も消極的になる。

 

「きっと誰に相談しても結果は同じ。それかさらに運気が悪化してしまうような気がする。」

 

そんな時にまたあの占い師の言葉を思い出す。

「今は何かを変えようと行動しない方がいい…」

そんなようなことを言っていたような気がする。

 

仕事の帰り道。

 

あの占い師の姿も見なくなった。

だけど気になっている。

家に帰り、思い切って電話をしてみる。

 

「あの、みてもらいたいんですが。」

「今予約がいっぱいでして、一番早くて2週間後になるんですがいいでしょうか?」

「2週間か。スケジュールを調整してみてまたかけなおします。すみません。」

 

有名な占い師かよ。

忙しくなったのだろう。

駅前で姿を見なくなった理由も商売が繁盛しているからか。

地道に駅前で活動してうまく顧客を掴んだのだろう。

そう思うと、

 

なんか商売の為に利用されているような気がしてくる。

 

きっとどんな商売でもそうなんだと思う。

そうは思うけど、なんか、なんかちょっと悔しい気持ちになった。

 

あの時の自分。

あの日、駅前に座っていた占い師。

その姿はどこか「人生がうまくいっていない」っていう気がした。

自分と似ている気がしたのかもしれない。

 

「俺もうまくいってないんだよー。だから話でも聞いてくれよー。」

 

と、話を聞いてくれそうな雰囲気を感じて声をかけたのかもしれない。

手相を見てもらって、それなりに当たっていた。

それから気になるようになった。

でも自分はずっと、どん底。

数日駅前に座っている占い師の姿を見て、どこかで「いつでも相談出来る」っていう安心感もあった。

むしろ仲間のような気がしてた。

うまくいっていない同士。

なんだかそれを見て安心していたんだと思う。

でも、

 

あの占い師は今、うまくいっている。

 

それは間違いなく事実だろう。

電話をしても予約が取れない。

仲間を失った気持ちと裏切られた気持ちと、

 

めっちゃ悔しい気持ちでいっぱいだ。

 

行動しない方がいい?

健康に気を付ける?

この状態がずっと長くは続かない?

頑張り屋さん!?

 

知ったことではない。

 

占うことで生計を立てる占い師。

その占いが忙しくて予約も取れない状態。

つまり、

 

仕事がうまくいっている状態。

 

仕事がうまくいけば人間関係も、恋愛もうまくいくような感じがする。

悔しい。

あの時の自分。

かなり弱っていた。

もちろん今も弱っている。

でも、悔しいのだ。

今は一度でも「占い」にどん底からの脱却を期待した自分が悔しい。

くそ。うまくいかない。

 

あの時予約が取れていたら。

 

「あなたはこの名刺を見て、私に必ず連絡をしてくるだろう。」

 

あの時、それがわかっているかのように渡された名刺。

しっかり連絡した。

狙い通りだっただろう。

私が2週間後にしか予約が取れないのならと一度諦めただけ。

改めて予約を取る可能性は十分にある。

 

が、

 

私はこの名刺を捨てる。

あの時予約が取れてしまっていたら。

恐らくあの占い師を心底信じたのだと思う。

あの時予約が取れてしまっていたら。

それを「運命だった」と言われたかもしれない。

あの時予約が取れてしまっていたら。

今「名刺を捨てた」自分はいなかった。

 

だとしたら。

 

予約が取れていても、取れていなくても、

 

どちらも「運命」で片付けられてしまう。

 

都合の良い運命なんてない。

 

なにもかも運命って言われればそれまで。

 

「運命」っていう言葉が最強に都合が良いだけ。

 

「今、名刺を破って捨てる運命。」

 

「その後、自分で頑張って這い上がる運命。」

「その後、恋愛も仕事も自分の力で勝ち取る運命。」

「その後、あの占い師よりも幸せになる運命。」

 

その後は俺が自分で決める。

 

運命。

 

あれは過去と決別させておいて未来を支配するすごく都合の良い言葉。

 

だったら使ってやろう。

 

俺は嫌でも幸せになる運命である。

 

それが叶わなかった時、

それは叶わない運命である。

 

もし全部が運命なら、考える必要もない。

だって、運命なんだから。

抗う必要もない。

それも運命。

運命を完全に信じたら、ひどくつまらない人生になりそうだ。