天気予報通り今日は快晴。
朝、傘を持って家を出る人は誰もいない。
私はいつも7時30頃の電車に乗って会社には8時20分頃に着く。
「今日、ヒョウが降るらしいよ。」
職場の同僚が話しかけてきた。
他の同僚はこの人が言っていることを信じている。
「マジ?」
「本当に?」
人は嘘をつくとき、独特な表情や行動が出るという。
口元に手を持っていったり、眉が少し上がったり。
癖は様々らしい。
私の場合。それが直感的にわかる。
子供の頃からずっとそうだった。
ちなみにこの直感が外れたことは無い。
霊感に近いものがあるのだろうか。
わかる人にはわかるというか、背中がそわそわするというかゾクゾクするというか。
嘘をついている人の話を聞いていると「それが嘘である」と体が反応するような感覚がある。
私は誰かが嘘をつくとわかってしまうのです。
嘘を見抜く人と嘘を言わない人。
仲良くなれない。
人が嘘をつくときのタイミングは偏っている。
「認められたい」と考えている時か「追い詰められた」時。
友人との間で、仕事で取引先との間で。
嘘だけで会話が成り立つ時もある。
直感でわかってしまう私はどうしてもそういう会話の中に入れない。
無理やり嘘をつこうとすると、鳥肌が立って言えない。
結局嘘をついた事がないのです。
それが原因なのかどうかはわからないが、多くの人と仲良くなれない。
唯一、友人と呼べるのは一度も私に嘘をついたことが無い人。
その人だけ。
小学校からの同級生で、今も密に連絡を取り合っている。
私が持っているこの直感は、
電話で話をしていてもメッセージでもわかる。
嘘をついているとわかれば自分から距離を置いてしまう。
嘘をつかないから「面白くない真面目な奴」と思われてしまう。
その両方の効果がうまいこと悪い方に作用して、結局誰とも仲良くなれない。
ただ、その同級生と話をしたり、メッセージを交わすと妙に落ち着く。
嘘がないから。
お互いそう思っているのだろう。
大人になった今でも毎日のように連絡を取り合っている。
偏り。
話の内容はどんな面白い嘘を発見したかどうか。
「芸能人に会った。」
「とんでもない武勇伝。」
「宝くじが当たったことがある。」
などなど。
嘘だとわかった時、その話がどれだけ面白い内容だったかを話す。
お互い電話で話したり、メッセージのやり取りをする。
友人も私と同じような悩みを抱えている。
仲良くなれない。
「共通しているのは嘘をつかない」ってこと。
それはお互いわかっている。
私はその友人に「嘘が直感的にわかってしまう」ことを伝えていない。
これを伝える事で唯一の友人にも距離を置かれてしまうかもしれないから。
今、心の支えになっている関係を「嘘がわかってしまう」理由だけで壊したくないのです。
だから私は小学校の頃から、
「嘘がわかってしまう事を誰にも伝えていない。」
これを伝える事で自分が気持ちが悪い存在になると知っているのだ。
過去。
「嘘がわかる」事実を最後に話したのは唯一の友人と一緒だった小学生の時だった。
「恐竜の卵を見つけたぞ!」
それは小学生がその場を盛り上げたり、自分の存在価値を高める為にやる「いつもの嘘」だった。
それでも多くの同級生は、
「どこどこ!?」
と言いながらその子の後を追いかける。
私は嘘だとわかっていた。
だから、
「どうしてそんなウソをつくの?」
と伝える。
そうすると肩を「ドン!」とどつかれた。
「うるせーな!」
案外傷つくものである。
小学生の私には「嘘をついている」と指摘をしたら嫌われる意味がわからなかった。
他の子とも嘘だとわかれば指摘していた。
そしたらどんどん孤立していった。
嘘を指摘しても自分の身に降りかかるのはいつもネガティブなことだった。
友人からの報告。
今日もいつものように友人から連絡が来る。
「好きな人が出来た。」
自分の事のように喜んだ。
それと、「嘘をつかない人」でも恋が出来る事を証明してくれたような安心感があった。
そこからは恋に発展した理由やそれまでにあった事を色々と聞かせてもらった。
「どうやら相手は嘘をつかない自分を気に入ってくれたようだ。ただ、少し問題があって、それを解決出来れば今後も仲良くやっていけると思う。もちろん好きだ。だから付き合いたいと思っている。」
「問題?」
「厳しめの家庭環境で育ったらしくて親にどんな人と付き合うのか報告をしなくちゃいけないみたいなんだ。そんなの付き合ってから結婚する前の話だと思ってたが、どうしても譲れないみたいなんだよね。だからその時に商社マンである事を伝えるつもりでいる。」
「商社マンじゃないじゃん。」
「それが向こうの家族の望みというか、安心させる材料みたいなんだよ。でも好きな気持ちは変わらない。お付き合いをしてから環境が変わっていくってのはあり得るし、とにかく付き合う為の条件として必要みたいなんだよね。」
「恋愛も大変だなwした事ないからわからんよ。でも、頑張れ!応援するよ!」
その一か月後。
友人とは連絡を取り合っていたが、その後の恋の発展の話は出て来なかった。
後日、
「いよいよ明日、彼女の両親に挨拶に行くよ。」
「そっか。頑張ってな!報告待ってます!」
友人の恋に感化されたのだろう。
私も恋をした。
職場での恋。
あまり活発な人ではなかったが、お互い似たような雰囲気を持っていたのだろう。
少し話をしたのをきっかけに互いに惹かれていった。
こうして今惹かれ合っているのにはわけがある。
今のところ彼女は私に嘘をついていない。
もちろん私はこれまで同様どうしても嘘が言えない。
友人と同じような心地良さがそこにはあった。
だから好きになったのだと思っている。
7月10日。嘘をついた。
その日、友人から例の彼女とその後の話を聞く為に会う約束をしていた。
時間は19時。
恐らくうまくいったのだろうと思っていた。
と、いうよりもうまくいって欲しいと願っていた。
約束した日、
「実は俺も驚く報告があるんだ!」
好きな人が出来たこと、そしていい感じで現在も恋が進行している事を伝えたかった。
人生初のサプライズ仕掛け。
会って驚かせたかった。
そして何より喜んで欲しかった。
だから会って伝えるまでは絶対に内緒にしておこうと思っていた。
18時半になる頃。
支度を終え、待ち合わせの場所へ向かう直前だった。
彼女からの連絡。
「どうしてもこれから会って話したい事がある。」
私は彼女を優先した。
友人に時間に間に合わない連絡を直前で入れる。
「本当に申し訳ないんだけど今日は無理になってしまった。」
「どうした?なんかあったのか?」
「いや、実は仕事が…。」
背中がゾクゾクした。
嘘をついた。
「そっか。いいよ!じゃあ終わったら連絡してくれ!待ってるわ!」
その後、彼女と会って話をした。
晴れて、恋人同士になった。
楽しい食事の時間だった。
この後、友人との約束があると伝え、お会計へ。
急いで出て来たことや嘘をついたことが重なって、
財布を忘れて来た。
「しまった。せっかくの記念日が台無しになる。」
それを察してか、彼女が「私が出すから心配しないでいいよ!」と言ってくれた。
「100倍にして返します!」
「それは嘘でしょw」
ゾクゾクしなかった。
嘘をついたのに。
その場は違和感というよりも恥ずかしさばかりだった。
友人との約束。
急いで友人が待つ飲み屋へ。
「いやー。ごめん。実はさ…。」
「まぁ座れよ!話があるんだ!何飲む?」
その後友人との話で多くの事が発覚する。
友人も嘘が直感でわかる人であったこと。
彼女の両親へ「商社マン」であると嘘をついたこと。
その時に背中がゾクゾクしたこと。
それをきっかけにゾクゾクが無くなり「嘘」が直感でわからなくなったこと。
私に彼女が出来たことを伝えたら本当にびっくりしていた。
あの時の「仕事が…」は嘘だと見抜けなかったのだ。
そして財布を持っていないことにもびっくりしていた。
でも喜んでくれた。
一緒に彼女が出来た喜びを存分に分かち合った。
おごってくれた。
後日、自分の彼女に「嘘が直感的にわかる」と伝えられ、驚く。
が、冷静に対応。
自分もそうであったこと。
あの日の「100倍返し」の前に一度嘘をついてしまったこと。
その時から嘘がわかる直感が無くなったこと。
そして嘘をついた理由が「嘘をついてでも会いたかったから」だったこと。
それを友人にサプライズとして伝えたかったこと。
人生に必要な嘘があるかどうか聞かれたら、今なら「ある」と答えると思う。
嘘を見抜く直感が必要かと聞かれたら、今なら「必要ない」と答えると思う。
嘘をついた方がドラマチックになることだってある。
どうか感想をください。