特別な行きつけのお店になる条件

生活

行きつけのフランス料理店がある。

行きつけとは言っても毎週行くわけじゃない。

誕生日とか、「特別」を感じる日に行きたくなる唯一のお店。

お店は決して広くない。

全部で20席くらいだろうか。

それとテラス席が一つ。

テラス席は冬は寒いし、夏は暑い。

観葉植物が置いてあるから小さな虫も出るから基本的に好きではない。

パーティー用といった感じ。

だから私たちはいつも中で食べる。

私たちとは我々夫婦の事。

いつも二人で行く。

行きつけのお店になるっていうのは特別な意識を与えてくれる何かが必要。

味なのか、場所なのか、雰囲気なのか、接客なのか。

全部なのか。

別にお店側に何かをしてほしいわけではなくて、自分たちにとって素敵な場所と思わせてくれる何か。

フレンチだから決して安くもない。

安くもないけど行きたくなる。

そんなお店。

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お店との出会い。

記念日と言えば。

家内の誕生日が近い。

 

「2人でゆっくり食事でもどうだろう?」

 

不慣れなインターネットを活用しながら様々なお店を調べる。

私たち夫婦は居酒屋さんが好き。

やきとりを出してくれるお店が好き。

ボトルをキープするような事はないが、時間もかからず、サクッと一杯やれるようなお店が今も好きだ。

値段もそんなに高くならない。

許容範囲である。

だから記念日と言えば串焼きが置いてあるようなお店と決まっていた。

そういったお店なら数も多いので選べたりする。

特別な行きつけとはちょっと違う存在。

いつでも行けるお店といった感じ。

 

「フレンチなんてどうでしょう?」

 

興味本位だった。

イメージが先行する。

高い。

時間をかけて食べる。

串焼きはない。

敷居が高い。

でも特別感はある。

 

今回はその特別感を最大限に活かそうと思い切ってフランス料理をチョイスした。

 

食べログやその他のお店の情報、雑誌も流し読みで探した。

そしたら、

 

「近所に小さいけどそれなりのフランス料理店があるらしい。」

 

早速電話をして予約を取ることになった。

そうすると予約の電話の時に、

 

「記念日などでしょうか?」

 

お店側から聞いてきた。

料理店に「そこまで」求めたりしない我々は基本的に記念日であってもその事を伝えたりはしない。

大っぴらにお店全体で「おめでとう」と言われても照れるもの。

お店で料理と少しのお酒を出してもらえれば十分だった。

だから記念日だとしても二人で何食わぬ顔で食事を楽しむようにしている。

そもそも予約の時に「記念日でしょうか?」と聞かれたこともない。

なんなら席だけ取っておいてもらおうとも考えていた。

串焼き屋の経験がそうさせたのか、フレンチが本来そういうものなのかはわからない。

だけどあまりにすんなり聞かれたもので、

 

「家内の誕生日なんです。」

 

つい、言ってしまった。

 

「お伝え頂きありがとうございます。かしこまりました。お待ちしております。」

 

それだけだった。

 

当日、お店へ。

ドレスコードとかそういうのは好きではない。

居酒屋育ち。

なんなら飯は寝間着で食べたい。

お酒を飲むならそのまま寝たい。

だからどんな格好でも大丈夫なフレンチを選んだ。

服装に縛りはない。

いつも通りの格好でお店へ向かう。

お店の前に着くと扉を開けてくれた。

名前を伝えると「お待ちしておりました。」と席へ通してくれた。

初めてのお店では一通りお店のお勧めが食べられるコースを頼むようにしている。

盛り合わせとか今日のお勧めとか。

その辺り。

ただ、フレンチとなるとコースがメインになるのだろうか。

取りあえずメニューの一番表に書いてあるコースを注文する。

 

「かしこまりました。」

 

飲み物も適当に頼んで料理を待つ。

前菜から順番に出て来る。

いちいち料理の説明をされるのはあまり好きじゃないタイプ。

だって出されたものはすぐに食べたいじゃないか。

だけど今日はそんなにイヤな気持ちがしない。

たぶんこれは接客の考え方だと思う。

 

料理の説明をするだけならいらないし来たものはすぐに食べたい。

 

でもこのお店はちょっと違う。

基本的に説明はしない。

 

「○○のカルパッチョです。」

 

と言ってすぐに去る。

こっちから聞かないと料理名だけを言う。

○○がなんのかわからない顔をすると、説明してくれる。

質問するとそれにも答えてくれる。

 

たぶんこの従業員はただ単にホールの仕事をしているわけではない。

空気が読めると同時に、このお店の料理がすごく好きなんだと思う。

気の使い方が嫌じゃない。

人間的に相性が良い。

だから「料理の説明」が嫌じゃない。

むしろ少し話したくなる。

そんなホールの従業員。

 

美味しい料理だからすぐに食べて欲しいけど、知りたい事があれば食べる前でも説明します。

 

そんな間合いの取り方をしてくる。

なかなか難しいことだと思った。

前菜から「このお店と出会ってよかった。」と思えたのはこのお店が初めてだった。

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料理との出会い。

食べるペース。

私は男だから料理を食べながら話をするのはあまり好きではない。

かと言ってむさぼりつく年齢でもない。

だから程よく食べながら程よく話す程度。

このお店にはそれがある。

 

フレンチのイメージは順番に出て来るが、食べるペースが合わないと待たされる。

 

このお店は前菜を家内より早く食べ終わると、私のところにだけ先に次の料理が運ばれてくる。

想像以上にピッタリ運ばれてくるのだ。

先ほどの店員は本当に良く私たちの事を見ている。

凝視するわけじゃない。

自然に。

テーブルの様子を伺って料理を作るのではない。

テーブルに座っている一人ひとりに合わせて料理を作っている。

そして食べ進んでいる状況をいつもキッチンにいるコックさんに伝えている。

だからお皿から料理が無くなるとすぐにちょうど良い温度の料理が運ばれてくる。

 

このお店に「フレンチは順番に出て来るから待たされる」は無い。

 

味。

フレンチを食べる機会はこれまでほとんどなかった。

だからフレンチの中で評価をするのはすごく難しい。

なんなら焼き鳥と比べてしまう。

ただ、美味しい。

今まで食べた事のない深い味がする。

何が入っているのかもよくわからない。

でも、美味しい。

接客も料理が出るペースも、味に含まれるのであれば、

 

このお店は間違いなく今までのどんなお店より美味しいと言える。

 

特別感。

コースを頼んだのだから決められた料理が出てくる。

そう思っていた。

私は大食い寄りの胃袋を持っている。

だからほとんどのお店の「大盛り」では少し足りない。

ただ、今日はフレンチ。

そういったところにはそもそも期待をしていない。

美味しい料理を家内とゆっくり食べる日。

そう思っていた。

メインの料理を食べ終わり、コースも終盤。

私が「まだ食べそう」と思ったのかホールの店員が聞いて来る。

 

「もし余裕がございましたら食べて頂きたい料理があるんですがいかがでしょうか?」

 

もちろんまだ食べれる。

 

コースには含まれない料理を振る舞ってくれた。

 

リゾット。

これがお腹にズシンとくる。

家内も普通の胃袋ながら誕生日というのもあり、便乗した。

案の定二人ともデザートの前にお腹が満たされてしまう。

店員が来る。

 

「申し訳ございません。言い訳になってしまいますが、今月から新しいメニューをスタートさせたばかりで量が多かったかもしれません。デザートはお包みさせて頂きますのでご自宅でお召し上がりください。」

 

むしろ追加したのはこっち。

それでも丁寧に「デザートは持ち帰ってOKだよ!」と言ってくれたのだ。

ほぼ完ぺきな接客だと感じた。

 

そのままお会計はテーブルで。

帰りはコックさんも出てきて、しっかり挨拶をしてくれた。

 

「量が多くなってしまい大変申し訳ございませんでした。」

 

いやいや。

悪くないです。

むしろすみません。

美味しかったです。

良い思い出が出来ました。

また来ます。

 

そう言って店を後にした。

 

帰ってすぐに持ち帰ったデザートを冷蔵庫へ。

しばらくして、「食べよっか!」と開けてみる。

そこには「お誕生日おめでとうございます。」の文字があった。

 

これは日本古来からの言葉で「粋な計らい」というやつではないだろうか。

 

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行きつけのお店になる。

条件が揃った。

行きつけのお店になるには人それぞれ条件がある。

私たちの条件は「2人共、嫌なところが一つもない店」になっていた。

そういうお店には何度行っても嫌な気持ちにならない。

だから通うようになる。

それが今回のフレンチのお店で覆された。

 

「好きなところがたくさんある」になった。

 

これでさらに行きつけのお店になる条件は高くなった。

「嫌なところが一つもない」は当然になった。

 

そして次の記念日で再び予約を取り、訪れた際に覚えていてくれた。

 

「いらっしゃませ。お久しぶりです。」

 

毎週行くようなお店ではない。

めちゃくちゃ高くもないが安くはない。

なんなら半年に一度くらい。

それでも覚えていてくれた。

そしてコックさんもホールの人も前回と同じ。

もちろんコースで。

料理のメニューはガラッと変わっていた。

こんなに前回とは別のものを出すのか。

真剣にお店と料理と客と向き合っている感じがする。

 

偉そうにもう一つ行きつけのお店の条件を出すなら。

 

「全スタッフがお店を愛していること」にしたい。

 

お店に愛情がなきゃ料理にも客にも愛情を注げないと思った。