私のジョブはピエロ

仕事

喉が痛い。熱がある。体が動かない。

最近寝不足が続いていたからだろうか。

多分風邪。

どこからもらってきたのか。

検討もつかない。

周りで風邪をひいている人はいなかったはず。

それなのにどうして自分だけがこうなってしまったのか。

 

子供の頃。

家族の中でこんな事があった。

 

自分だけ風邪をひいて高熱を出したが、誰にもうつらず、治った。

 

もし、風邪のウイルスに得意分野とか、性格があるなら、相性もあるはず。

 

今私は間違いなく何かのウイルスの侵入を許し、相性も最悪。

 

頭痛、高熱、喉、鼻。

 

クスリは飲んだ。

後は体内でウイルスを退治してくれる事を信じるしかない。

 

この時だけは本当に何も出来ない。

とにかくだるい。

それでもやらなくてはいけない仕事がある。

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ウイルスと仕事とジョブとゲームショウ。

横になりたい。

高熱を出している時に限って抜けられない仕事が入っていたりする。

今日の為に多くの準備をしてきた。

今後の商品の売り上げにも大きく関わる。

誰一人欠けるわけにはいかない。

 

今日はゲームショーの初日。

 

自分には大した技術があるわけではない。

頑張ったのは開発部。

今日という日に間に合せようと毎日のように徹夜で「ああでもないこうでもない」と議論しながら完成させた。

命を削るような想いで完成させたゲームを持っていざ出陣。

自分に出来るのは訪れた人に「ゲーム」を紹介することくらいだ。

そのくらいしか出来ない。

むしろ何も出来ない自分の唯一の仕事。

それが今日。

 

休めるはずがない。

 

口から放り込む滋養強壮剤はすべて体に取り込んでやった。

それでも今、間違いなく高熱。

体調の管理不足。

 

情けない。

 

一体何が出来るんだろう。

何も出来ない。

本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

正直、立っているのがやっとの状態。

昼まで耐えた。

お昼の休憩。

飯が喉を通らない。

 

飯を食うよりも、横になりたい。

 

なんか、本当に申し訳ない。

 

魔法。

お昼の休憩が終わりを告げる頃。

私たちのブースではユーザーの反応の手応えを感じていた。

良いものが完成した。

それは自信を持って言える。

別に私が作ったわけではない。

でも、

「どこのゲームよりもうちのゲームだ!」

っていう気持ちだけは負けてない。

…。

 

話は変わるが、

今、体内では何が起きているんだろうか。

 

小さいウイルスと小さい私が戦っているんだろうか。

槍で突き合っているのだろうか。

一瞬でウイルスを消し去る大魔法を使いたい。

ウイルスを燃やし尽くす炎の魔法。

そういうのを唱えたい。

ゲーム感覚で風邪をやっつけられたらいいのに。

 

それか瞬間移動が出来る魔法。

家のベッドまで。

 

いや。

ここは回復魔法もいいか。

回復しても毒をもらってるから効果は薄いか。

 

具合が悪い。

倒れる寸前です。

 

召喚士。

今日一日をどうやって攻略するべきか。

 

「体調悪そうですけど大丈夫ですか?」

 

そりゃ気が付くわな。

何しろ私は休憩の場所から一歩も動いていない。

正確には身体が重過ぎて動けないのです。

いつもなら簡単に手に取れる携帯ですら重く感じる。

 

朝起きてから、午前中が終了するまで。

今のところずっとウイルス側のターン。

こっちのターンは今のところ一度も回ってこない。

具合が悪いわけだ。

 

私が一歩も動けない休憩所は、我が社のブースのちょうど裏側。

この休憩所にはいくつかのメーカーさんのメンバーが出入りしている。

そこに召喚士がいるとは知らなかった。

 

電話を耳に当てて小声で話をしていたが、たぶんそれが召喚獣を呼ぶ方法なのだろう。

 

程なく狙い通りの人物が召喚される。

 

薄着のおねーちゃんだ。

キャンペーンガールが召喚された。

 

なんということだ!うほ!

体調が少し良くなった。

 

見るだけで体調がみるみる回復していく。

凄い。

いるだけで広範囲の回復領域を作り出す。

召喚魔法、最高。

 

あまりジロジロ見るわけにはいかない。

見れる範囲で見て、回復して、さあ。

なんと、

私は立ち上がった。

 

キャンペーンガールは仲間になりたそうにこちらを見ている。

声をかけますか?

【はい】

【いいえ】

 

高熱が出ている状態だとそんな妄想はいとも簡単に出来るものです。

ありがとう召喚士。

少し元気が出ました。

午後。

 

いよいよ俺のターンだ。

 

レベルの違い。

ゲームショウ。

各メーカーが持っている技術と、開発力、発想力を思う存分パフォーマンスする。

 

その中でも圧倒的な力を持った召喚士がいた。

 

多くのキャンペーンガールを一度に召喚出来る圧倒的なMP。

底を尽きることが無いんじゃないかと思わせる。

大手メーカーの召喚士。

 

声優という神獣を召喚した。

 

多くのユーザーがその圧倒的な力に引き寄せられていく。

レベルの違いを見せつけられる。

圧倒的な力でユーザーを奪う。

 

そして私は憧れの視線を送る。

 

大手メーカーではなく、その場にいるであろう大召喚士に。

メーカーのレベルなど、もはやどうでもよかった。

ゲームの画面など見ない。

面白いのは自分たちのメーカーに決まっている。

 

私が目を奪われたのは、キャンペーンガールだ。

多くのキャンペーンガールを召喚出来るあの召喚士だ。

真剣に悩んだ。

ウイルスとの闘いの最中。

真剣に悩んだのだ。

 

召喚士への転職を。

 

キャンペーンガールのレベルが違い過ぎる。

 

質も量もだ。

 

ジョブ

夕方になり、ゲームショウの一日目も終盤を迎えつつある。

初日の教訓やユーザーの反応を見ながら明日の戦略を練る。

 

我が社のゲームをより興味深く魅せたい。

 

それが今私が勤めている職業なのです。

響きをかっこよくするのであれば「イベンター」。

ゲームっぽくするのであれば「ピエロ」。

私のジョブはピエロです。

 

恐らく、物語の中盤からラスボス戦までの間で活躍することはないでしょう。

 

誰もが鍛えたがらないジョブ。

でも好きな奴は好き。

 

やり込み度はかなり高い。

全部「ピエロ」のパーティー。

ただのネタである。

 

夜になり、体調が悪化してきた。

今は瀕死のピエロ。

もし死んだら、今は優先的に蘇生させる必要はないと判断されてしまう。

だからオレンジのゲージでギリギリ戦っている。

相手の攻撃を受けないようにパーティーの一番後ろで隠れながら戦っている。

こんなところで倒れるわけにはいかない。

勇者でもなく、戦士でもなく、魔法使いでもない「ピエロ」が、ゲームショウというダンジョンの1階で死亡しそうになっている。

 

誰もが思うはずだ。

 

パーティーから外そうと。

 

そう思われないように、必死に自分のレベルの低さや体力の低さを隠しながら戦う。

そう。

だからこそピエロなのだ。

赤くなった鼻で高熱を隠す。

カラフルな衣装をまとって鼻水を拭き取る。

誰も気が付いていない。

まさか、私が圧倒的な高熱を出すウイルス毒に冒されているとは。

でも大丈夫。

 

今日はなんとか乗り切れる。

 

ジョブチェンジ希望。

今日の営業は終了。

 

「お疲れ様でした。」

 

今日はすぐに帰ろう。

同時刻、我が社の王様が現れた。

 

「初日はどうじゃった?」

 

戦士に問う。

戦士、本日の報告をする。

 

ピエロ瀕死。

 

今日一日の反省会ということでパーティー全員へ向け作戦が言い渡された。

 

「ガンガン飲もうぜ!」

 

ヤバい。

終わってから来た王様が圧倒的な権力で作戦を強引に変更した。

そして夜が更ける。

宴が始まる。

ピエロ。みるみる具合が悪くなる。

今日の反省もほどほどに宴会もお開き。

 

王様が言う。

 

「諸君、初日はよくぞやってくれた。明日も頼むぞ。」

 

家までの道。

高熱で意識が薄れていくのを感じた。

電車に乗り、改札を通り、電車を降り、改札を通り、コンビニに寄る。

滋養強壮剤を買う。

家までの道。

すぐに滋養強壮剤を使用した。

回復は望めず。

そのままベッドへ。

寝ながらピエロは考えた。

今日一日の事を。

 

頭の中を圧倒的な記憶力で支配したのは、キャンペーンガールであった。

 

寝ながらピエロは誓った。

ゲームショウが終わったらダーマ神殿へ向かおう。

 

召喚士へ転職だ。

こんなに好都合なジョブはない。

極めれば多くのキャンペーンガールを一度に召喚出来るようになる。

 

ピエロは寝れなくなった。

でもウイルスに勝った。

 

私のジョブはピエロです。