鬼ヶ島で恋をして

恋愛

「結婚しない」を選択する男性。

その男性は40代前半。

未婚。

取引先で仲良くしている知人の一人。

プライベートでの交流はないが、仕事上親密でいなければならない理由がある。

大人になると面倒な付き合いが必要なこともあるのです。

 

その男性は「恋をしたい」らしい。

 

ちゃんと理想の女性像もある。

口に出すのは、

 

「この年齢だし、価値観が合えば。」

 

これまでどれだけの女性と出会ってきたのかはわからない。

実際に女性とお付き合いしたこともたくさんあるようだ。

 

「全く価値観が合わないなんてことあるかね。」

 

と思ってしまう。

本人いわく、これまで「鬼」としか出会ったことが無いらしい。

これまで出会った女性のすべてが「価値観が違う鬼」だったのだ。

鬼だらけ。

本国はさながら「鬼ヶ島」。

鬼ヶ島で「人」を探しても見つかるはずがない。

住みついているのは「鬼」だけなのだから。

稀に島に迷い込んだ女性がいたかもしれない。

だが鬼の餌食。

見つかればあっという間に胃袋の中。

だそうな。

40代前半。未婚男性の日常。

身だしなみ。

ハゲてはいない。

なんならオシャレに気を使う。

洋服にも、髪型にも。

女性が好みそうなものは一通り把握している。

鬼以外の女性がいればすぐにアプローチする。

女性に声をかけるのもお手の物。

 

それでも恋には発展しない。

理想。

「本当に恋をしたいのか?」

と聞けば

「イエス!」

と返ってくる。

 

変なところはない。

それが第一印象。

女性にモテないわけではない。

が、

理想がズレてる。

背の高さまでも指定してくる。

理想を求めるのは良いが、細かい。

そしてそのほとんどが外見にまつわる理想。

むしろ、

日本にはあまり馴染みのないスタイルを理想としているようだ。

海外モデルのような人を探している。

この国は鬼ヶ島。

本人にとっては理想とするスタイルの女性以外はすべて鬼に見えるのだという。

だから夜な夜な日本の鬼がいない外人たちが集う酒場に出入りすることもしばしば。

こちらとしてはその理想は圧倒的に不利だとわかる。

取引先の方なので「攻め」の発言は控える。

 

「見つかるといいですね!」

 

なんて違和感のある応援で精いっぱい。

私の人生で「仕事の話だけしたい!」と思うのはこの人だけだ。

過去のトラウマ。

過去の恋の経験。

怒り狂う女性。

とにかく背が大きい女性。

お金を盗む女性。

家にあるものを勝手に売る女性。

貢がせる女性。

ドライヤーを使わない女性。

 

どの恋も長続きしなかったようだ。

 

一般的な私からすれば豊富なネタを持っている男性だとは思う。

そうは思うが一癖も二癖もある。

 

そういう女性のトラウマがいつしか本国には鬼しかいないと思わせるきっかけになったのだろう。

仕事上、どうしても応援せざるを得ない。

本能が言っている。

「こいつはヤバい奴」だと。

40代前半。男性。未婚。恋を探す。

鬼ヶ島を出る選択。

特殊な理想を持つこの男性。

その理想を追うがあまり、多くのトラウマを抱えてきた。

そしていつしか、日本人は合わないと感じるようになる。

 

「鬼ヶ島にいては恋が出来ない。」

 

何を考えたのか外国に行く選択をする。

もちろん恋を探しに。

外人が集うバーで相談を持ち掛けたところ、「海外に探しに行く」という選択を推奨されたらしい。

ただ、この人が英語を話している姿を私は一度も見たことが無い。

何語で話をして、海外に行く選択をしたのかわからない。

だが、自分としても同意見である事を伝える。

 

「やっぱりそう思いますか!?よかったー。」

 

私が共感していることに喜んでいるようだった。

後日。

会議室。

こそこそ話で話しかけてくる。

 

「色々ありまして、今度、ロシアに恋の決着をつけに行ってくることにしました。」

 

「ロシア!?」

 

焦ったが冷静になる。

 

「きれいな女性が多いって聞きますもんね。良いと思いますよ。」

 

完璧な回答であった。

 

「一緒にどうですか?証人になって欲しいですし。」

「さすがにそれはwははw」

 

と一人で行くようであった。

ワクワクする。

「一週間ほどで帰ります。」

 

ただの旅行なのかと思った。

本人は「現地調査ですよ!」などと戯言を。

愛想笑いも苦しくなる。

 

「帰ったらお土産話。楽しみにしていてくださいね!」

 

楽しそうで何より。

なんなら現地で恋をして鬼ヶ島には戻らない選択をすればいい。

でも、

 

めちゃくちゃワクワクしている様子であった。

 

そのくらい楽しみなのだろう。

本人は本気で「日本人とは合わない」と思っている。

屈託のないワクワク感を目の前にして、少し応援したくなる。

むしろ私もどこかでワクワクしていたのかもしれない。

 

とんでもない事になる予感がした。

一か月が過ぎた。

連絡が無い。

仕事の関係上取引先になる。

旅行に行っている期間は引継ぎの人を紹介されるのかと思ったが、それもなかった。

つまり我々との仕事を継続させた状態で恋を探しにロシアへ行ったのだ。

 

「あれから連絡がないんですよね。電話も繋がらなくて…。」

 

上司に伝える。

もちろん引継ぎがないか相手の会社に連絡を入れる。

 

旅行を延長しているらしい。

 

とんでもない人だ。

恋を探しにロシアへ旅行。有休をフルに使ってまだ探している。

 

その数日後。

本人から無事に帰国したとの連絡が入る。

鬼ヶ島の外の世界。

今後の仕事も含めて一度会って打ち合わせをすることになる。

出来るなら仕事の話だけにしたいがそうはいくまい。

何しろ恋を探しにロシアへ一か月も休みを取って行ったのだ。

その爆発的な行動力を使ってお土産話が「ない」わけがない。

 

「お久しぶりです。延長されてたみたいですけど、見つかりましたか?」

 

「実は、向こうで以前日本で知り合ったロシアの女性と落ち合うことになってまして。私が旅行でロシアに着いた頃はまだ日本で働いていたんですよ。だけどせっかく来ちゃったものだからすぐには帰れないじゃないですか。それで観光しながら待ってたんです。結局1か月経っても仕事があるっていうことで一度もロシアでは会えなかったんですけどねwでも約束したんですよ?向こうの実家に紹介したいって言うもんですから。それでロシアに行ったんです。決着をつけに!さすがに怒りましたよー。やっぱり結婚なんて考えない方がいいんですよ。」

 

「ほー。なるほど。大変でしたね。」

 

ってなるはずがない。

この人はヤバい奴なのです。

解説させてください。

 

そもそも日本の飲み屋で働いている「ロシアの女性」の事が好きになって、ぎこちない英語で会話をしている内にラインの交換。

 

ラインでのやり取りや、たまにお店に行って一緒にお酒を飲むようになるが、そのロシア女性が働いているお店の中で会うことしかない。

つまりその女性のお客さん。

ぎこちない会話の中で「うちの実家の両親に紹介する」みたいなことを言われて、その気になって、我先にロシアへ行く。

これが決着をつけるの意味。

 

その後、ロシアに着いたはいいが「日本でお店の仕事があるから帰れない。」って言われたものの長期休暇を取っていたので滞在を選択。

 

まめに連絡を入れるが「店が忙しい。待ってほしい。」と言われてそのまま一か月。

 

有休も無くなり、日本に帰って来て、そのお店に行き、女性とお酒を飲みながら説教をした。

つまりその女性のお客さん。

 

怒るところは間違っていないと思う。

確かにそれは怒っていい。

待たせたわけだから。

約束したのに。

でも色々とヤバい。

もう自分が理解することが出来る領域にはいない。

 

「鬼ヶ島の外はどうでしたか?」

 

「はい。可能性は感じましたね!」

 

と言いながら「じゃーん!」といった感じで「ロシア語の教本」を出した。

順序がおかしい気がしたが、「いよいよですね!」とかいう意味がわからない返事をした。

そしたら「いえいえこれからですよ!」と言われた。

 

この人はきっと鬼だ。

良くわからないが、「人」ではなくて「鬼」の方が価値観が合うと思う。