研究とタブーと発見とジョーク

小言

私はこの国が最も隠したい重要な情報を持っている。

その情報を他の国に公開する代わりに身の安全を保障してもらう。

 

亡命。

 

他の国の監視下に置かれるが、身の安全を確保してもらえる安心感は大きい。

持っている情報の価値によっては他の国が亡命を受け入れるかどうかわからない。

 

私が持っている情報は「反重力物質」の作り方。

 

多くの国が興味を示すだろう。

その物質が量産出来れば「空を飛ぶ」も「見たこともない兵器」も作れる。

 

だが、この国は「反重力物質」の存在を他の国に公表しない。

国家最高機密の情報であった。

 

「世界が混乱してしまうから。」

 

表ではそう言うが、独り占めを狙っているのは明白だった。

だから他の国の協力を求めない。

資金力も技術力も持っている国に「反重力物質」を奪われてしまう。

だが多くの研究員たちは私に「亡命するべきだ」と言う。

この研究には期限が設けられているからだ。

国の資金を使い、研究を続けるには期限が必要になる。

より多くの資金とより良い技術を持って、世界の未来の為に「完成」させるべきだと考えている。

もし今、「亡命」を選べば多くの研究員たちを危険にさらすことになる。

失敗すれば命の危険。

全員の安全が保証されるわけでもない。

 

研究者は頑固者である。

 

理由は、ありものしないものを「存在する」と決めつけて、それを研究するから。

頑固者でなければ務まらない。

「出来るかわからない事」についても研究し、それを出来るようにする。

 

恐らく亡命は成功する。

恐らく「反重力物質」も完成する。

 

私はこの研究の最高責任者。

期限も間近に迫り、多くの研究員と共に研究を続けてきて、「完成しそうな」今になって思う事がある。

 

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この世には完成させてはいけないものや発見してはいけないものがある。

タブーとされるもの。

毎日毎日、研究だけをする。

朝起きて、寝るまで、ずっと研究のことだけを考えている。

恐らく世界中のほとんどの人がそうではない。

生活が保障される変わりに、自分の全ての時間を研究に充てる。

それで家族は守られる。

どちらかというと裕福な暮らしが可能である。

 

生活に困らないのにも関わらず、大好きな研究に全ての時間を捧げる。

国が認める研究の一つ。

だから国の運営費用として研究費が使われる。

生活の保障も研究費となる。

気が付いている人もいるだろう。

様々な研究や開発を国が支援している状況。

税金と呼ばれる費用を国は何に対して使用しているのか。

もちろん国民はそれを知る権利を持っている。

文章や文字や声明で。

実際のところどうなのか、憶測が憶測を呼び、まるで都市伝説のように語られる時もある。

 

本当は別の何かに税金を使っているのではないか?

 

ずっと、ずっと、ずっと研究をしている状態を考えてみて欲しい。

毎日毎日、起きてから寝るまでずーっと研究が出来る環境。

例えば公開されていない料理のレシピがあるとする。

 

「その味を再現する研究」

 

毎日毎日起きてから寝るまでその味を研究する。

もちろん専門分野の研究員たちが。

どのくらいの期間でその味が再現出来るか。

 

人によっては再現出来ないと言う。

人によっては3日もあれば十分だと言う。

 

タブーとされている部分は「研究員たちの知識と技術」であってレシピそのものではない。

 

レシピの中に「塩」と「胡椒」の調味料の記載があれば一般的にも理解出来る。

その中に「トルクリン90K」という調味料の記載があったらどうだろう。

 

一般的にはわからないレシピになる。

 

その研究を続けている研究者にしかわからない「調味料」がある.

「トルクリン90K」をすぐさま用意し、レシピ通りに料理を完成させることが出来る。

そういう人の知識や技術は公開されない。

顔も名前も公開されない。

誰がどうやって作ったものなのか。

 

公開されるのはいつも、誰も意味すらわからないレシピばかりである。

 

レシピも調味料も知っている私の存在はタブーそのものであった。

 

本当は知っている。

本当は、今の研究所で、今あるもので、「反重力物質」を量産する方法を知っている。

つまり完成させられる。

完成してしまえば多くの利益を得られるだろう。

完成させれば世界の脅威となるだろう。

 

物が浮き、それが兵器になる。

 

だけど、完成させることが正解なのかわからなくなってしまった。

それが無くても世界は回っているから。

バランスを保とうとしているから。

大発見や大発明はいつもそのバランスを崩そうとする。

 

自分が知ってしまったことや作れるものは大発見であり、大発明である。

 

でもそれを権力を持った人がどう使うのかわからない。

その使い方によっては世の中が大きく変わってしまうかもしれない。

多くの研究員は完成させることをゴールとしている。

だからなんとしてでも完成させる方へと行動するだろう。

資金と技術がある国へ。

その選択も全ては研究の結果を示す為である。

 

完成させるのに犠牲はつきものだと言い張る頑固者。

本当は知っている完成の方法を言わないと決めた頑固者。

 

研究者はどうしてこうも頑固者が多いのか。

 

優秀な程、頑固である。

だから私は絶対に完成させる方法を言わない。

 

あなたは何かを隠している。

同じことを研究している者にしかわからない事がある。

それは微妙な変化であった。

 

「何か隠してませんか?」

「いいや。なにも。」

 

疑われ始めたのだ。

それが「反重力物質」を完成させる程の隠し事だとは気付かれていない。

それでも何かを隠していることはわかる。

ある研究員が完成に近づく物質を発見し、それを報告に来た。

 

「これはすでに発見されている物質であって、完成に近づくものではない。」

「でも、使い方によっては…わかりました。」

 

権力を振りかざし追い返した。

研究員が発見した物質は紛れもなく完成に近づくもので、まだ発見されていないものであった。

 

「何かを隠している。」

 

優秀な同僚程厄介な存在になることがある。

それはいつも何かを「隠したい」と考えている時。

 

提案。

私たちは国民が働いて収めてくれた税金で生活や研究を日々繰り返している。

期日までに成果が出なければ、研究は打ち切りとなり、集められた研究員達は解散する。

 

期日まで、あと1か月。

 

私は完成の方法を知っている。

だが、そのまま解散となるのを待つ。

この世に「反重力物質」などいらない。

それが理由である。

完成を間近にしたからこそ気が付くことがある。

不要。

世の中には不要な研究や成果が多過ぎる。

 

期日までに完成を目指す研究員。

勝負はすでに決している。

それは私が最高責任者だから。

なにがあっても解散させるつもりでいる。

 

研究は成果をもたらすことはなく、解散となるだろう。

 

解散まで残り1週間を切った。

 

その日、研究員がある提案をしてきた。

 

「我々は完成間近だと思われる研究成果を持って、違う国へ行きます。そして必ず完成させます。どんなにタブーだとしてもこの情報を持って亡命します。期日も迫っています。方法を知っているあなたが完成させるべきです。皆そう思っています。選んでください。あなたが完成させるか。私たちが別の国で完成させるか。」

 

「待て待て。まず完成しないのだから選ぶ必要もない。亡命も必要ない。この星には重力があるのだからそもそも反重力など作れない。」

 

とっておきのジョークをかました。

 

解散。

まもなく、私たちの研究は成果を得られず解散となる。

研究の最中に生まれた副産物は新たな研究として様々な新薬や素材として使われることになるそう。

「全く意味のなかった研究」にはならなかった。

多くの副産物を生み、そこからさらに飛躍していく研究結果もあることだろう。

 

「私は完成の方法を知っている。」

 

でも知らない事にする。

これから先もずっと知らないことにする。

きっと誰か、もっと偉くて権力を持っている人が気付くんだと思う。

この世にはいらない物が多過ぎる。

いらないもので溢れている。

 

必要なものはいつもごくわずかである。