テレビと親父

小言

テレビを見ながら「あーでもない」「こーでもない」と語る親父。

人は歳を重ねるとそれなりに知恵を身に着けるらしい。

それなりの経験もしているらしいのだ。

青春を駆け抜け、社会の中で生き、親になり、今テレビの前にいる。

焼酎のロックを片手に。

 

「さんまが出ているテレビは面白いなぁ。」

 

と言いながら。

たまに「それはないだろ!」とか「だよなー。」とか、

楽しそう。

 

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テレビの前は親父の評論会場。

若いモデルが出てくる。

言葉遣いが少しユニーク。

 

「だだだだだーっは!」

 

笑っている。

夕方のニュースのキャスター。

 

「俺こいつ嫌いだからチャンネル変えるわ。」

 

「この店行ったことあるよな!?え?」

 

「この人はあれだな、なんか言ってることが面白くないな。」

 

「もっとこうした方がいいのにな。」

 

楽しいのだと思う。

とても。

大河ドラマがすごく好き。

母親から聞いた。

そしたらお付き合いをしている時からずっと歴史好き。

映画も歴史にまつわるものばかりだったらしい。

何なら「映画のデートはマジでつまらなかった」らしい。

母親は歴史に興味なし。

それでも強行突破する親父はさすがに時代が時代の男だったのだろう。

別に頑固でもない。

空気が読めないわけでもない。

なんならちょっとおちゃらける。

歳を重ねて更に周りに合わせるようになった。

 

「何が食べたい?」

「いいよー。」

「洗濯物を畳もうかー。」

 

全く持って頑固さは感じない。

黙って腕を組んで座っているような事もない。

ずっと同じ会社に勤め続けて、定年退職。

立派だと思う。

誇らしい。

今となってはただの大河ドラマ好き。

いんや。

ずっと昔からそうだった。

ずっと歴史が好きだった人。

テレビの前で今日も焼酎をロックで飲んでる。

とにかく、テレビを付ける。

家に帰ってくると、いつも座る席には必ずテレビのリモコンが置いてある。

家を出る前に置いたのだろう。

いつでも定位置に。

自分の椅子に座り、リモコンに手を伸ばす。

スイッチオン。

チャンネルを変えていく。

自分好みの番組を探しているのだろう。

今日は日曜日。

時刻は14時。

まもなく競馬のチャンネルで落ち着くだろう。

馬券を買った様子はない。

むしろ趣味でレースを見たいだけなのかもしれない。

でもチャンネルは変えない。

CMになっても変えない。

 

「15。調子が良いかもしれない。」

 

小さい声でなんか言ったな。程度。

競馬新聞が目の前に置いてあることに気が付いた。

赤い鉛筆で様々なところに線が引いてある。

 

いつも口癖のように言っていた。

「馬券は買ってないんだよね!」と。

テレビではレースがスタートした。

 

「うお!?」

 

リアクションはいつも通り。普通。

予想をして、それをテレビで見るのが好きなのだろう。

レースも終盤。

黙った。

目を凝らして見ている。

手が少し「グー」になってる。

応援している馬が出ているのだろうか。

 

「今日はダービーだからな!」

 

別に質問はしていない。

見たくない番組を見ているこっちに気を使ってレースの紹介をする。

レースはまもなく終了。

テレビでは競走馬がビュンビュンとゴールを切って走り去る。

 

「肉だ。今日は肉にしよう。」

 

どうやら馬券を買っていたらしい。

しかも万馬券だったみたい。

めっちゃ嬉しそう。

そのあと、自分がどうしてその万馬券を買うことになったのか、テレビの前で30分くらい語ってた。

余韻。

レースの余韻。

こっち側は肉を買いに行く準備をしたいのに。

買いに行けたのはレースが終わった1時間後。

調子に乗って霜降りにしてやった。

帰ってきて肉を見せる。

 

「いいねぇ。」

 

本気で万馬券だったんだね。

まだテレビの前で競馬新聞を見て復習してる。

勝気だ。

 

「あぶく銭は使った方がいいんだよ。」

 

これまで負けた分は計算に入ってないんだろうな。

でもすごく嬉しそう。

やっぱり男は好きな事をやらせてあげる方がいい。

競馬の馬券を買う事を拒んだら、こんなに嬉しそうな親父は今ここにいない。

結果は万馬券。

これは奇跡なんかじゃない。

だって「どうしてこの馬券を買ったのか」30分も説明する程。

まるで「わかっていた」と言わんばかりに。

だから奇跡じゃない。

全ては予想通り。

親父というのは何でも知っている。

知っている風な時もある。

でも父親っていうのは男。

男っていうのは半分見栄で出来ている。

威張れ。

大丈夫だ。

テレビの前にいる時は最強。

実際に万馬券を当てた人が一番偉い。

ご馳走様です。

相談。

なにしろリビングテーブルの定位置に、いつもテレビを見ながら座っている。

家族が何か相談する時もテレビの電源はON。

少しシビアな相談をしたとしても、テレビを見ながら答える。

テレビを見ながら考える。

テレビを見ながらアドバイスをしてみる。

CMになると目を見ながら話す。

焼酎を飲んでいるとそこから熱くなったりする。

そうなるともうテレビは見ない。

話に夢中になる。

でもテレビは付いている。

母親が気を使ってテレビを消す。

 

「見てる!」

 

と言ってまた付ける。

相談は続く。

なかなか答えが出ない。

もしくは難しい話になってくるとテレビを見る。

 

「また今後にしよう。」

 

試合終了の合図。

テレビを見始めるとあんまり相談の内容が入ってこないらしい。

当たり前だ。

テレビに夢中。

歴史関係の番組だとしたら絶対に聞いてない。

でも、

テレビの前にいる親父を一度だけ振り向かせた相談がある。

 

 

「結婚します。」

 

 

親父は速攻でテレビを消した。

その夜テレビの前で一緒に焼酎のロックを飲んだ事は記憶に新しい。

あの時のテレビの前の風景は一生忘れない。

あの時すぐさまテレビを消した親父。

絶対に忘れない。

プレゼントを渡す。

我が家には誕生日だからといって何か特別なことをする風習がない。

仮にプレゼントを受け取る準備なんて出来ているはずがない。

でもその日は少し違った。

なんだかプレゼントを用意したくなった。

本当になんとなくだった。

滅多なことでプレゼントなんて買わない。

選ばない。

渡さない。

だから喜んでくれるだろう。

どこかで確信していた。

 

アウトレットに行ってみた。

 

オシャレなものを全く身に付けない親父。

なんならとてつもなくオシャレなものでも買っていこう。

 

ハンチング。

 

見たことない。

見たことないけど被ってたら素敵な親父になる気がした。

衝動買いに近い。

似合うと決めつけた。

購入。

プレゼント用に包装してもらった。

豪華な箱だな。

喜ぶに決まっている。

晩飯時。

まるでサプライズと言わんばかりに

 

「てってれー!」

 

と渡した。

テレビの前に座っている親父に。

そのままテレビの前で受け取り、開封。

家族一同「似合ってる!」と攻め立てた。

少し恐怖を感じたのか、照れたのか。

 

「ありがとなー!大事にするなー!」

 

と言ってテレビを見始める。

席を立って帽子は自分の洋服ダンスにしまってた。

我が家には誕生日だからといって特別プレゼントを渡すような風習はない。

これまでもずっとそうだった。

あの日、渡した白いハンチング。

サプライズとも言える程に驚いた表情。

 

「ありがとな!」

 

喜んでいた。

と思いたい。

そう信じたい。

あれから10年近くたった今。

あのハンチングを被っているところを一度も見た事がない。

この間なんとなく買ってきたスニーカーはずっと履いてる。

お気に入りらしい。

 

「そういえばずっと前にプレゼントしたハンチングはどこにあるの?」

 

なにげなく聞きたくなった。

そしたら洋服ダンスまで行ってすぐに出してきた。

 

まだ包装用の箱に入ってた。

 

帽子として被ってないのにも関わらずホコリも被ってない。

 

「使わないならもらうよ?」

 

「だめだよ。使うよ。」

 

と言いながらまた洋服ダンスに大事そうにしまってた。

そのあと母親が、

 

「これでいいんだよ。」

 

って言ってた。

テレビの前に座りながら。

母親にもテレビの前の定位置があった。

ニヤニヤしてた。

夫婦というのはよくわからない関係性で成り立つことがある。

仲が良いならそれでいい。

小言
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心優しきあなたにお願いがあります。

お見苦しい点が多々ある私なりの文章をここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。改めまして、執筆者のdaimaruです。

この度、DONGURILOGという日記サービスを共同運営させて頂く事になりました。

シンプルに伝えると、「みんなで日記を書くスペース」になります。

かれこれ数年このブログを続けて思った「ひとりで更新し続ける難しさ」を解消しつつ、多くの価値観を共有しながら楽しめる場所です。

まだ始まったばかりのチャレンジではありますが、多くの方に使って頂きたいと思っています。

ここまで私が書く、しがない文章を読んで頂き、目もお疲れかと存じますが、どうか、最後に、私の渾身のワガママを聞いて頂けないでしょうか?

無理なお願いをしているのかもしれません。

でも、「日記を書く」には多くのポジティブな効果があります。今日一日を振り返るだけで多くの気付きがあります。

じらしてすみません。

一緒に日記を書いて頂けないでしょうか?

私は多くの人と日記として記録を残す毎日を過ごしたいと思っています。

そしてそれがきっかけで多くの人が救われる瞬間があるんじゃないかと思っています。

私が求めているのは募金や署名ではありません。

シンプルにあなたが持つ価値観や考え方です。

本来「日記を書く」は一人で行う趣味的な存在なのかもしれませんが、それを多くの人と同じスペースで書く楽しさを大声で主張したい。

「うおー!」です。

是非一緒に、DONGURILOGで、日記を書きましょう!

自分の為になり、誰かの為にもなる。

そんな最高のスペース作りにご協力ください!宜しくお願いします!

あれんじ

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